1部
「シマトビケラの蛹に捕食寄生するユスリカ」(小林貞さん)
表題を中心に、トビケラ類に共生・寄生するユスリカ類の一般論もふくめて、話題提供してもらいました。シマトビケラ蛹に捕食寄生するヤドリハモンユスリカ、4齢あるなか
の3齢と4齢しか見つからないそうですが、その前はいったいどこに行っているんでしょう?また、トビケラの蛹に寄生するユスリカ類は系統が違っても頭に類似し
た突起があるそうです。ちなみに16日の日川渓谷での水生昆虫採集では、トビケラの巣の中から、頭に突起をもったユスリカの蛹が見つかりました(>小林貞さ
ん、たぶん、川崎市の丸山さんから送られると思います)。言われて気にしさえすれば、結構見つかるのかもしれません。
「フタバカゲロウの生態と発生〜その特異さと謎について〜」(東城さん)
フタバカゲロウは、他のカゲロウにはない、いろいろな特性を持っています。相互に関連していると考えられますが、一時的な水たまりに産卵すること、分散能力
があること、コスモポリタンであること、卵で幼虫を生むこと、生まれ出たときに単眼がないこと(普通のカゲロウは、二つの複眼と三つの単眼を持って生まれてく
る)、などです。とくに幼虫で生まれることに関しては、他の昆虫で存在する卵が使うための栄養物質がこの種では存在せず、卵胎生ではなく胎生である(胚発生で
母親から栄養をもらう)可能性も示唆されました。今後、母親から出して発生が進むのか、などの研究のほか、分散距離や地域間の遺伝的な分化なども手がけていき
たいとのことでした。
「クロカワゲラ科について」(清水さん)
クロカワゲラ科、整理と今後の採集がすすむと、50種かそれよりずっと多くの種が見つかるだろうとのことでした(このことが言われたとき、参加した人から驚
き(?)の声があがっていました)。今回、清水さんから成虫によるクロカワゲラ科の検索が配られました。底生動物として扱っている人たちは、幼虫による検索が必要
なのでしょうが、それはまだのようです。
「水生昆虫の生態に関するビデオ」(刈田さん)
刈田さんが普段専門にしているスチール写真以外に、最近始めたという生態観察のためのビデオをみせてもらいました。渓流を模した水槽での撮影ですが、水が流
れ、多くの種が共存しているので、水槽であることを感じさせない映像でした。カゲロウが藻類をこそげとって食べる場面や、トビケラがもぐもぐと手(前脚)をつ
かって餌を食べる場面などは、見た人に新しい発見と水生昆虫に対する親しみを感じさせたと思います。
2部(談話会のこれまでとこれから)
「談話会20周年の歩み」(金田さん)
20年間毎月で、合計240回の例会が行われています。その240回の例会のタイトルから、傾向を解析して、紹介してもらいました。分類群別にみるとトビケ
ラ関連、研究分野別にみると生態関連のものが増えているそうです。なお、現在の水生昆虫談話会ホームページには、107回以降の例会の話題と話題提供者が掲載
されていますが、今回、金田さんがまとめなおしたことにより、1回からすべてのものが掲載されることになりました。また、要旨・資料集、水辺の輪も、それぞれ
1号から最新号まで、持ってきてくれました。
「水生昆虫学の今後の課題を無責任に語る」(小林草平さん、東城さん、清水さ
ん、一柳)
過去の研究テーマなどの変遷を見るといろいろな対象の変化や研究における不足点も見えてくるでしょう。たとえば、サイエンスの中で水生昆虫や河川を材料とし
て扱うことが有利であるはずなのにまだやられていないこと、河川生態学や水生昆虫学で日本という地理的特性を活かすと有利であるはずなのにまだやられていない
こと、応用的な側面で社会的な必要性があるのにまだやられていないこと、などが、あるはずです。自分のことは棚に上げて、それらに関して意見を言い合い、語
り合おうというのが企画の主旨です。
まず、小林草平さんが、生態学の学術雑誌に掲載された論文テーマの頻度や変遷を調べた上で、これからの河川生態学の課題となるべきことを話してくれました。
今後の河川生態学の課題として、空間的な異質性の問題、河川生態系の他の生態系(たとえば、下流)に対する影響、などをあげてくれました。
東城さんは、水生昆虫こそ生物多様性研究の鍵になるという話でした。全生物の種数のうち多くは有翅昆虫で、その翅こそが多様性の源だったと考えられますが、
有翅昆虫の原始的なものがすべて水生昆虫であること、鰓が翅の起源である可能性があることがら、分子遺伝学者、発生学者などが注目しているのが水生昆虫です。
そのために、これから、もっと多くの人が水生昆虫を材料として使うようになるだろう、とのことでした。また、そのような人は、「これ、なんという種?」とか、
「こんな研究の材料になるカゲロウはいないのか?」などの質問も多いということで、水生昆虫の基礎生物学的な研究ももっと進めておく必要があると話してくれま
した。
清水さんは、分類学(または分類学者)の現状を語ってくれました(これは、「話してくれた」と書くより、「語ってくれた」と書いたほうが、ピッタリです。
状況をイメージしてください)。日本の水生昆虫分類学としては、タイプ標本をチェックするなど、サイエンスとしての手続きはしっかりしてきた、とのことで
す。問題は、分類学者の需要と立場の問題です。昆虫分類学研究者のポストが削られている状況のなかで、分類学者が社会に対して提示しなければならないこと、分
類学者の仕事の確保の方法(理想)を語ってくれました。
最後に一柳が、日本の河川応用生態学の課題として、環境モニタリングにおいて日本で欠けていると思うことを話しました。要点は二つで、河川生態系の指標の改
善と指数化がなされていないこと、事業影響などを評価するときの調査デザインが不備なことが多いことです。さしあたり、自分たちで、河川生態系の指数を開発す
ること、多くの人が参考にできるよう、最近出された河川におけるインパクトアセスメントの本(具体的には"Monitoring ecological impacts" Downes et al.,
2000)を翻訳して、適切な河川のモニタリングデザインのとり方を提示していくことを提案しました。(以上、一柳レポート)