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6月例会 181回

イワナの餌環境と食性

181回例会 1997年6月21日  東大農学部 森林動物研究室
小林草平氏 (shohei@fr.a.u-tokyo.ac.jp) の講演要旨です。
 
 
 

 森林内を流れる山地渓流には,河床に付着している藻類や外から入ってくる落葉を利用し多くの水生微生物や水生無セキツイ動物が生息しています。
同じく渓流に棲む魚のイワナ(Salvelinus leucomaenis)は,その水生無セキツイ動物を河床からつついたり流れてくるものを待ち受けたりし採餌利用しています。
また河畔の植生からは陸生無セキツイ動物が渓流に落下供給されますが,イワナはそれもエサ資源として利用しています。 (岩手県南西部丹沢川支流カヌマ沢→)

渓流内と陸上から供給されるイワナのエサ資源量は,様々なエサ生物の活動パターンに影響され季節変化するため,イワナの食性もそれに応じて変化していくことが考えられます。そこで96年の春(5月)・夏(8月)・秋(10月)に調査を行い,イワナのエサ環境と食性について季節変化の研究を行いました。 

調査は岩手県南西部を流れる胆沢川の支流カヌマ沢(川幅2〜4m,広葉樹林内を流れる)で行いました。調査はイワナのエサ環境として樹冠から落下する無セキツイ動物量・河床に生息する水生無セキツイ動物量・川を流れ下ってくる流下無セキツイ動物量を,これと合わせてイワナの捕獲を行い胃内容から食性をみました。
             
・イワナのエサ環境 
落下・河床・流下のあらゆるエサ環境で,供給量は春に最も多く,夏・秋に減少する傾向が見られました。また,流下無セキツイ動物の中身を見ていくと,春はそのほとんどが水生であったのに対し夏・秋は陸生の割合が50%近くにまで増加しました。 
一般に水生昆虫は春先に最も豊富になります。 陸生昆虫の落下量も今回の調査からは5月下〜6月上に最も多い傾向がありました。
流下無セキツイ動物の中の陸生の割合は夏・秋に増加しましたが,供給量が多くなるためではありませんでした。

・イワナの食性 
イワナの食性もエサ環境に沿って季節変化が見られました。春はどのイワナも水生無セキツイ動物ばかり採餌していましたが,夏・秋では陸生無セキツイ動物を採餌する割合が増加し,特にそれは大きな個体ほど顕著に見られました。しかし,今回の調査からはイワナの採餌量の季節変化については分かりませんでした。 
どの季節においても,イワナが特に水生または陸生の無セキツイ動物を好んで食べている傾向は見られず,エサ環境に合わせて採餌しているように思われました。しかし水生昆虫について見てみると,カゲロウ目・カワゲラ目は避けられていて,トビケ目は特に携巣性トビケラが
季節とも好まれて食べられている傾向がありました。 他の研究からも陸生無セキツイ動物の河川への供給は,特に夏・秋にそこに生息する魚にとって重要なエサ資源になっていることが示されています。エサ資源の面でイワナはおおいに森林の恵みを承けていますが,生活環境の面でも,つまり森林による水温上昇の抑制や森林がもたらす河川の複雑な構造が重要であることが注目されています。

イワナの餌環境と食性 

森林内を流れる山地渓流には,河床に付着している藻類や外から入ってくる落葉を利用し多くの水生微生物や水生無セキツイ動物が生息しています。
同じく渓流に棲む魚のイワナ(Salvelinus leucomaenis)は,その水生無セキツイ動物を河床からつついたり流れてくるものを待ち受けたりし採餌利用しています。
また河畔の植生からは陸生無セキツイ動物が渓流に落下供給されますが,イワナはそれもエサ資源として利用しています。 (流下物採取トラップ →)

渓流内と陸上から供給されるイワナのエサ資源量は,様々なエサ生物の活動パターンに影響され季節変化するため,イワナの食性もそれに応じて変化していくことが考えられます。
そこで 96年の春(5月)・夏(8月)・秋(10月)に調査を行い,イワナのエサ環境と食性について季節変化の研究を行いました。 

調査は岩手県南西部を流れる胆沢川の支流カヌマ沢(川幅2〜4m,広葉樹林内を流れる)で行いました。調査はイワナのエサ環境として樹冠から落下する無セキツイ動物量・河床に生息する水生無セキツイ動物量・川を流れ下ってくる流下無セキツイ動物量を,これと合わせてイワナの捕獲を行い胃内容から食性をみました。                                             

                                                     

・イワナのエサ環境


落下・河床・流下のあらゆるエサ環境で,供給量は春に最も多く,夏・秋に減少する傾向が見られました。また,流下無セキツイ動物の中身を見ていくと,春はそのほとんどが水生であったのに対し夏・秋は陸生の割合が50%近くにまで増加しました。 一般に水生昆虫は春先に最も豊富になります。陸生昆虫の落下量も今回の調査からは5月下〜 6月上に最も多い傾向がありました。流下無セキツイ動物の中の陸生の割合は夏・秋に増加しましたが,供給量が多くなるためではありませんでした。

・イワナの食性 

イワナの食性もエサ環境に沿って季節変化が見られました。
春はどのイワナも水生無セキツイ動物ばかり採餌していましたが,夏・秋では陸生無セキ
ツイ動物を採餌する割合が増加し,特にそれは大きな個体ほど顕著に見られました。 (採取状況→)
しかし,今回の調査からはイワナの採餌量の季節変化については分かりませんでした。
どの季節においても,イワナが特に水生または陸生の無セキツイ動物を好んで食べている傾向は見られず,エサ環境に合わせて採餌しているように思われました。
しかし水生昆虫について見てみると,カゲロウ目・カワゲラ目は避けられていて,トビケラ目は特に携巣性トビケラが各季節とも好まれて食べられている傾向がありました。 他の研究からも陸生無セキツイ動物の河川への供給は,特に夏・秋にそこに生息する魚にとって重要なエサ資源になっていることが示されています。エサ資源の面でイワナはおおいに森林の恵みを承けていますが,生活環境の面でも,つまり森林による水温上昇の抑制や森林がもたらす河川の複雑な構造が重要であることが注目されています。

                                            以上