中生代の初期(約2億年前)に,チョウ目(チョウやガ)との共通の祖先から分かれ
たと考えられているグループで,成虫は蛾に似ていますが翅には隣粉ではなく短い毛
が密生しています。現在までに世界で10,000種程度,日本から400種程度が記録され
ていますが,新種や未記録の種も多く,研究が進めば日本産だけで1,000種近くにな
るのではないかと思われます。
幼虫はごく一部の陸生種を除いて水生で,河川や湖沼を始め水の滴るようなごく小さ
な流れや一時的な水たまりにも生息します。またニュージーランド周辺では海産のト
ビケラも発見されています。
幼虫の体型は基本的にイモムシ型で,カゲロウ目幼虫のように生息環境に合わせた大
きな変化は見られません。それなのに,多くの種類がさまざまな水域を利用できるの
には,幼虫の吐く絹糸の利用が関係していると考えられています。絹糸で張った網
や,砂粒や植物片をつづり合わせて作った筒巣を持つことによって,流れてくる餌を
利用できたり捕食者から逃れたりできるからです。また,筒巣の中で体をうねらすこ
とにより,水を効率よく体表面付近を通すことができるため,渓流のような流水域だ
けでなく,池沼などの止水にも進出できたと考えられています。
蛹もほとんどの種類は水生で,水中の石の裏などでまゆを作ります。成虫になるとき
はそのまゆを破り,多くは水中を泳ぎ上がって水面や水面上に突き出た石の上などで
羽化します。
成虫は地味で夜行性のものが多いためあまり目立ちませんが,夕暮れ時に川岸などで
大きな蚊柱のように群飛をしていたり,街灯や自動販売機の灯りに飛んでくるのを見
ることができます。とまるとき,翅を屋根形に畳み,細長い触角を前方に伸ばしてい
ますので分かります。また,ヨツメトビケラやゴマフトビケラのように目立つ翅を持
ち,昼間飛ぶ種類もいます。毒を持つ蛾などに擬態しているのかもしれません。
日本を始めとする東アジアにおけるトビケラの分類,分布,生態の研究は,欧米に比
べまだ発展途上にあります。ここ十数年の研究で多くの新種が発見され,いくつかの
種の生態も報告されていますが,まだまだ面白い発見が期待されます。それにもかか
わらず彼らが生息する身近な水環境は,残念ながら悪化しています。さまざまなトビ
ケラが棲めるように,彼らの生息環境を保全していきたいものです。
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野崎 隆夫
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